またもたどり着けなかった毛勝山頂
毛勝山は日本二百名山に数えられる魚津市の最高峰であり、標高は2415mに達する。山の中腹にある万年雪は、海岸から約20kmの距離に位置し、これほど海に近い万年雪は世界的に見ても珍しい。
毛勝山へのアタックは、主に2通りある。一つは残雪期に毛勝谷を詰める方法。これが最も楽である。もう一つは西北尾根の登山道を使う方法。登山口から山頂までの標高差は1700mに達し、相当な体力が要求される。
そんな毛勝山だが、私は今年の3月に初めてアタックをしたことがある。3月はまだ残雪期ではなく、厳冬期の冬山だ。その時は、大明神尾根経由でのアタックであった。時間的に1泊しかできなかったため、南峰手前の2249mピークで時間切れとなり、引き返してきたのであった。
今年の夏は、一度は西北尾根経由で山頂に立ちたかったが、実行に移せていないまま、11月を迎え、山頂は既に雪で覆われてしまった。だが、雪の量次第では、まだ狙えなくもない。ということで、快晴となった今日、アタックを仕掛けることにしたのである。
登山口へ向かう車の中から、高くそびえ立つ毛勝山の姿。単独山行のため、とても緊張していた。
車を停め、7時10分に歩き出す。先客が1人いるようだ。毛勝山の登山口には、最近大きな石が置かれた。
シダの生い茂る静かな森の中を登っていく。
尾根上に出るまでは、300mほどの急登が続く。身体が重く感じられた。急登が終わったところで、先客に追いついた。松本から登りに来た人で、警察官であった。
その後は、1479mの三角点に向け、登山道は徐々に標高を上げていく。標高1300m近辺で、突如ヒヤリとする事態が発生。前方の茂みがガサガサと動き、何かの獣が猛スピードで谷底へ駆け下りていった。慌てて笛をリズミカルに鳴らし、後方の登山者に合図を送った。心臓バクバクであった。
それでも、尾根からの眺めはとても良い。僧ヶ岳〜駒ヶ岳の稜線が美しい。
標高1500mを超えたあたりから、ちらほら雪が現れ始めた。
上を見上げる。はるか上方に猫又山が見えた。まだまだ先は長い。
後ろを振り返ると富山平野が一望できた。
9時20分、スタートから約2時間10分、標高1700mを超えたあたりで、スパッツを装着し、ストックを取り出す。まだ積雪は10〜20cm程度で、問題なく歩けるが、1900m近辺から一気に雪の量が増えた。当然ペースも急激に落ちる。
この雪は、数日前の寒波によりもたらされたものであり、陽の当たらない斜面では、雪は割と硬く沈み込まないが、陽の当たる場所は雪は緩み、歩くたびに沈み込む。ここに来て、ワカンジキを持ってこなかったことを後悔した。
小さなデブリ(雪の塊)が斜面に転がっていた。小さな雪崩の跡のようである。今日の雪の状態を見る限り、雪崩が発生しそうな雰囲気はなかったため、それほどビビりはしなかった。
10時16分、モモアセ山(2023m)への急登に差し掛かる。ツボ足で、しっかり雪を蹴り込んで、階段を作りながら登っていく。
10時26分、モモアセ池を通過。池は氷結しているようだ。
これから進む道を眺める。緩やかだが長い斜面だ。
手前は、毛勝山から駒ヶ岳へ続く稜線。見えているのは、サンナビキ山、滝倉山、ウドノ頭あたりだろうか。その奥は後立山連峰。
右は鹿島槍ヶ岳、左はおそらく五龍岳。
すぐそこなのに、なかなかモモアセ山に到着しない。これが雪山なのである。
斜面の向こうに毛勝山の頂上が見えた。はるか彼方にある。今の時刻は10時40分。このペースだと、おそらく今日は山頂に到達できなそうだと直感した。
10時49分、モモアセ山を通過。ここから30mほど下ってから、2151mピークへのきつい登りとなる。
ラッセルは大変だが、景色は雄大だ。
2151mピークまでの登りは、本当にきつかった。一歩踏み出す毎に、膝上まで沈み込む雪、灌木や笹の枝の隙間にできた空洞。いやらしい斜面を、夏靴とストックだけで、もがきながら登っていった。そして、12時に2151mピークに到達。そこで見たのは、目の前に迫るようにして聳える毛勝山本峰の姿であった。これを登るには、少なくともあと2時間はかかるであろう。キリがいいので、ここで今日は終了とする。
ザックを降ろして、雄大な眺めをシャッターに収める。
この景色を独り占めである。
富山平野方面。ゆっくりしている時間もないので、おにぎりとソーセージを食べて、急いで下山を開始する。
雪山の下山は早い。登りで、もがき苦しんだ箇所も、下りはスイスイ降りられた。
30分ほどでモモアセ山まで戻って来た。V字のルンゼの先に見える青空が鮮やかである。
V字の底をたどりたくなるが、左の斜面をトラバースしていくのが正しい。登りでつけたトレースが役立つのである。
モモアセ池まで戻ってきた。大股でガシガシ下りる。とっても気持ちがいい。
このあたりでラーメンを作ろうとしたが、気温が低いのかガスがうまく燃えなかったため、諦めてさっさと下山することにした。
1800m付近まで降りてくれば、もう雪は少ない。これで雪道ゾーンは無事に抜けたことになる。一人でよく頑張ったものだ。あとは熊に気をつけて、1000m強下るだけだ。
熊が怖いので、頻繁に笛を吹きながら歩いた。下りは調子が良く、15時15分に登山口に無事到着。車に戻って、待望のラーメンを食べた。箸を忘れたので、手ですくって食べた。
今日は、一人で本格的な雪山に挑んだことになる。状況判断、ルートファインディング、ラッセルなど様々な技術のトレーニングになった。そして何より、一人という不安との闘いにも勝利することができた。頂上に行けなかったのは残念だが、充実感が大いに得られた山行となった。今度は、仲間と一緒に雪山で遊びたい。
それにしても、上の方は、あんなに積雪しているとは思わなかった。やはり、山は行ってみないと分からないものである。