大明神尾根より目指す毛勝山 -2日目-
4時起床。朝食はラーメンだ。よく眠れておらず食欲もあまりないが、とりあえず胃袋に詰める。カロリーメイトも一袋食べた。雪は止んでいたが、ガスで視界が効かない。息を吸うだけで外気がかなり冷たいことが分かる。雪はカチカチに締まっている。昨日はすべてワカンで歩いたが、今日はアイゼンが必須である。また、ロープが必要になる場面に備え、ハーネスを装着する。
風で飛ばないよう、テントをたたみ、午前6時に出発する。例によって北側には雪庇が張り出しているため、南側の斜面をトラバース気味に登って行く。本格的なアイゼン歩行は今回が初めてである。ベテランの2人に指導してもらいながら進む。2人によるとへっぴり腰になっているとのことで、怖がらずしっかり立って歩くように心がける。
7時15分。大明神山の山頂に到着した。ガスが濃く、周りの景色は見えない。予想以上に時間がかかっている。このペースでは、毛勝山まで往復すると日があるうちに下山するのが厳しいであろう。小休止して、先に進む。行けるところまで行くのだ。大明神山から先は一旦100mほど下ることになる。視界が効かないため、ルート取りが難しい。雪庇にも注意しながら慎重に進む。
8時20分。1984mの鞍部を通過。ここから南峰手前2249mピークまではかなりの急傾斜のようだ。アイゼンの爪をしっかり効かせて登る必要がある。部分的に傾斜は50度を超えていただろうか。ハイマツの幹につかまりながら登る箇所もあった。非常にスリリングだ。登りは問題なくても、下りが問題だ。ロープを使っての懸垂下降が必要になるかもしれない。
急勾配の危険な斜面を必死に登ること約100m。傾斜が緩んでくるとともに、開けてくる。この先が2249mのピークであろう。それにしてもすごい場所だ。「地の果て」という言葉が似合う。
9時30分。2249mピークに到達である。ガスは晴れかかっている。もう少しで毛勝山の山容が見えそうである。そんなに遠くはないが、これ以上進むと日没までに下山できないだろう。残念だが、この場所を今回の最終到達地点とする。
ピークでしばらく休んでいると、ガスが晴れてきた。広がる絶景に3人は笑顔になる。ここまでへの頑張りに対する最高のご褒美だ。写真を撮り合う。
どっしり構える毛勝南峰。その後ろに本峰。
雪煙なびかせる凛々しい姿の釜谷山。
反対側には雲海が広がる。
20分ほど滞在し、気を引き締めて下山を開始する。すぐに傾斜がきつくなる。下の写真をご覧になれば、お分かりであろう。ものすごい地形だ。ベテラン2人にとってはロープは不要だが、初心者の私に万一のことがあってはいけないと、Yさんがすかさずロープを取り出し、懸垂下降の準備を始める。Dさんが先頭で降り、続いて私が懸垂下降で降りる。最後にYさんがロープを回収して、バックステップで降りる。
斜面より上を見上げる。この傾斜だと初心者は登れても安全に降りられない。
だいぶ降りてきた。最低鞍部が近づく。
トップで降りるDさん。
不意にガスに巻かれ、視界が悪くなる。
4ピッチ繰り返して最急傾斜地を無事に通過することができた。とはいえ、まだまだ気を緩められない斜面が続く。ベテランYさんは、こんな場所でもスカスカ降りる。いずれこんなことができるようになりたい。
斜度が緩んできた。雪庇に注意しながら進む。
11時40分。最低鞍部に到着。降りてきたルートを振り返る。巨大な雪のドームだ。自然の偉大さに人間はかなわない。
大明神山へは100mほどの登り。緩やかだが、ここまでの疲労の影響か足が重い。そして太陽が照りつけ、暑い。
12時30分。大明神山に到着である。また急にガスに巻かれて視界がきかない。剱岳を見たかったのだが、残念だ。ガスの切れ目から毛勝山が見えた。
大明神山からの下り始めは、かなりの急勾配になっているが、バックステップで確実に降りる。ガスが抜け切らないが、向こうの山の荒々しい姿が垣間見える。
幕営地までは途中1箇所だけ懸垂下降を利用した。13時30分、幕営地着。登りも下りも3時間半ほどかかった計算になる。いやはや長い行程であった。だが、ここから登山口まで長大な尾根が続く。今日は長い一日となりそうだ。テントを急いで撤収し、パッキングする。
14時、幕営地を後にする。荷物が一気に重くなるが、ずっと下りなので、それほど気にならない。アイゼンを装着しているためか、足が靴と擦れて痛い。下界は晴れているようだ。
14時45分。ジャンクションピーク付近。ピーク手前の細尾根では、いつ崩壊するかも分からない雪庇上を横断せねばならない箇所があってひやひやした。降りるにつれ天気は良くなる。ガスがかっていて風景を楽しめなかった昨日の分まで、絶景を思う存分堪能しながら進む。
絶景に癒されながらどんどん標高を下げていく。僧ヶ岳が白く輝いている。
ブナ林は霧氷になっていて美しい。
15時45分。1149m付近のヤセ尾根だ。念のため、ロープを出して懸垂で降りる。土が出ている上をアイゼンで行くのは不愉快だが仕方ない。
長かった行程も終わりが近づこうとしている。さすがに疲労が蓄積してきた。雪が緩んできて歩きづらくなるが、アイゼンのまま進んだ。杉の植林地帯で落とし穴に一回はまった。大事には至らなかったが、テンションが下がる。
17時25分。片貝第4発電所。明るいうちに林道まで降りてくることができて良かった。もう体力は限界に近づいているが、車まで1時間歩かねばならない。日没が近づき、あっという間に暗くなる。山の端から月が顔を出す。月明かりに照らされながら、寂しい林道を3人でとてとて歩く。
18時30分。ついに車まで戻ってきた。無事戻って来れたことに感謝し、三人で握手を交わす。今回の山行で、アイゼンワークはだいぶ上達したはずだ。そして懸垂下降の要領もつかむことができた。
もうあたりは真っ暗だ。車で市街地まで帰っていく。夜空に浮かぶ月だけが明るく輝いていた。