絶景と花々に癒される白山2日目
虫の声。沢のせせらぎ。やわらかい月明かり。穏やかに吹き抜ける夜風。そんな大自然に包まれながら、幸せな一晩を過ごした。これぞテント泊の醍醐味である。
午前3時を過ぎた頃、周りの人々が起きて調理を始めたようだ。その音で目を覚ます。テント内の気温は12℃。寝袋から出て着替えようとすると、寒さで震えが止まらない。それでも、荷物をまとめ、テントの外に出る。月の姿は見えなくなっていた。その代わりに満天の星が煌いていた。ヘッドランプを消し、しばし呆然と立ち尽くす。天の川まで見える。寝起きからとても感動した。
しかし、星に見とれている暇はない。急いでテントの撤収に取り掛かる。フライシートの内側は結露でびしょびしょになっていた。テントの底も泥で汚れていた。だが、そんなことは気にしてはいけない。適当に丸め、袋に詰め込む。パッキングを完了した頃には時刻は4時になっていた。東の空が白み始める。
山荘に向かうと、既に玄関で2人が待機していた。山荘ではまだほとんどの宿泊者が寝静まっていた。4時15分、山荘を出発する。展望歩道を経由して室堂へ向かうのだ。室堂までは3.1kmの道のり。その途中でご来光を望む計画だ。
しばらくは木道が整備されていて歩きやすいが、木道が途切れると、昨日の雨のせいで道がぬかるんでいた。Wさんが滑って転ぶ。歩きづらそうにしていたため、ストックを取り出して使わせた。振り返ると遥か彼方に雲海が見える。
アルプス展望台に着く前に太陽が顔を出した。穏やかな夜明けである。近くでホシガラスが鳴いていた。美しい容姿からは想像できないような下品な鳴き声だ。カラスなのだから仕方あるまいが。
初めて見る山の上でのご来光に2人は感動していた。昨日、雨の中を頑張って登った甲斐があった。
5時10分、アルプス展望台に到着。御嶽山から穂高連峰、立山連峰までが一望できる。ザックを降ろして朝ごはんの支度をする。お湯を沸かし、塩ラーメンを食べた。
御嶽山をズームアップで撮ってみた。朝日に照らされ、雲海から突き出したその姿は荘厳である。
5時50分、室堂へ向かって歩き出す。室堂までは1.7km。ここから先は、大展望とお花畑が広がるパラダイスとなっていた。クルマユリ、イワオトギリ、ハクサンフウロ、コバイケイソウ、リンドウ、アオノツガザクラ、クロユリ、ハクサンコザクラ、コイワカガミ、ハクサンシャクナゲ、イブキトラノオ...。去年出会えなかったクロユリに出会えて嬉しい。
反対側はこの景色。幸せな空中散歩を楽しむ。
室堂に近づくにつれ、植物の密度が増していく。色とりどりの可憐な花たちを見て、Wさんは「かわいいー」「きれーい」「すごーい」「しあわせー」を連発していた。
標高はだいぶ上がった。室堂まであと少し。
7時15分、室堂に到着。予定より少し遅れていたが、20分間の大休止を取った。
室堂から山頂までは標高差250mの登り。ここも道の両側には花が咲き乱れていた。後ろを振り向くとこの景色。
別山をズームアップ。油坂をはじめとする登山道が一望できた。今回、別山に行けなかったのは唯一の心残り。なお、写真下の建物は南竜のケビンや炊事場だ。
8時20分。ついに白山最高峰、御前峰2702mの頂に立った。
360度の絶景が広がっている。去年、ここに来た時はガスで何も見えなかったのだ。
予定より遅れていたため、往路で室堂に戻ることを考えていたが、Wさんがお池めぐりをしたいと言う。その意志があるなら行こうではないか、ということでさらに山頂から先へ進むことにした。御前峰からの下りはガレ場になっていて、高度感もある。慎重に進む。
翠ヶ池。鮮やかなコバルトブルーに輝いていた。
もちろん花たちも咲き誇っている。チングルマとコイワカガミの群生地。
相変わらず素晴らしい眺めである。
室堂近くの斜面にはミヤマキンポウゲが咲き乱れていた。
10時15分、室堂まで戻ってきた。エネルギーと水分をしっかり補給し、10時30分に下山を開始する。下りは観光新道経由で別当出合まで戻るのだ。写真左側の道はエコーライン。右側の道を行く。
10時55分。黒ボコ岩(標高2320m)。砂防新道と観光新道の分岐点となっている。どちらも別当出合まで約5kmの道のりだ。観光新道を行く。
ここから先が、本日一番の高山植物のパラダイスであった。
ハクサンフウロにニッコウキスゲ、色とりどりの花で溢れかえっている。
雲の隙間から見えたのは殿ヶ池避難小屋。
ニッコウキスゲとイブキトラノオと青空の共演。ニッコウキスゲには夏空が似合う。
まさに圧巻。この道を選んで正解であった。
お花畑に心奪われ、頭の中もお花畑になる3人であった。
タカネナデシコとソバナの共演。
12時。殿ヶ池避難小屋。標高は2020m、別当出合まで4km。予定よりかなり遅れてしまっているが、ここは焦らずゆっくり行こう。15分ほど休んで歩き出す。
13時20分。慶松平分岐。別当出合まであと2km。それにしても長い。分岐からは急坂になっていた。ただでさえ足を滑らすと転落の危険があるのに、疲労の蓄積した身体でここを行かなければならない。気を引き締めて進む。
14時40分。長かった下りが終わる。ついに別当出合に到着だ。朝4時過ぎから10時間以上に終わる長旅であった。友人2人には「本当によく頑張った」と言いたい。14時50分のバスで市ノ瀬へ戻り、永井旅館で入浴する。
16時。市ノ瀬を出発し、金沢駅へ車を走らせる。楽しかった3日間を回想する。17時半に金沢駅で2人を降ろす。2人はこれから東京に帰るのだ。私は富山に帰る。途中、高岡のしゃぶ葉でしゃぶしゃぶをお腹いっぱい食べた。家に着いたのは22時過ぎ。疲れたが、大満足の1日であった。