3泊4日の冬山大周遊 ③
3日目の今日は、元日である。朝食は、年越しそばとお餅だ。昨晩は細かい雪がパラパラとテントを叩いていた。ざっと見積もって10数cmの新雪が積もったようだ。
天候の回復を待ち、7時20分に出発する。険しい犬ヶ岳への登りに備え、全員ハーネスを装着する。
まずは小ピークをいくつも越えながら進んでいく。
目指す犬ヶ竹の頂上はガスの中。巨大な山容がだんだんと迫ってくる。
一瞬だけガスの隙間から山頂が姿を現した。目の前に迫り来る化け物のような急峻な稜線に圧倒される。
9時、1270mの最低鞍部を通過し、犬への最終アタックが始まる。まずは両方向へ雪庇が張り出したいやらしいヤセ尾根を慎重に進む。
稜線の右側は黒薙川の源流、すなわち日本有数の名渓である北又谷の最奥地である。
一方、左側は境川源流の似虎谷(ねごや)。こちら側に転落すると、数百メートルの滑落は避けられず、命を落とす可能性が高い。
標高1400mを越えた先で待っていたのはナイフリッジだ。安全に通過するためにはザイルが必須である。
ナイフリッジを一人ずつ慎重に通過していく。
ナイフリッジを越えたら最後の激登が始まる。藪などの手がかりがしっかりあるため、ザイルはいらないようだ。
歩いてきた険路を振り返る。
斜度45度に達する斜面を必死に交代でラッセルすること約1時間、標高1530mを越え、犬ヶ岳から朝日岳へと続く稜線(栂海新道;つがみしんどう)が右側に姿を現した。猛烈な風が吹き荒れて、雪煙が舞い、巨大な雪庇が張り出している。
稜線上は猛烈な風が吹き荒れている。風で煽られて転倒しないように一歩一歩確実に歩いていく。ガスが晴れ、青空が広がってきて綺麗だ。
後ろを振り返ると、初雪山から歩いてきた稜線がはっきり見えた。
12時45分、急斜面を登りつめ、栂海新道に合流した。犬ヶ岳山頂はすぐそこだが、険しい地形に雪庇が発達し、危険なため、ロープをフィックスして進む。
朝日岳へと続く厳冬期の栂海新道は人を寄せ付けない荘厳な稜線だ。
30mロープで2ピッチ伸ばして危険箇所を通過。暴風が吹き荒れる中、ロープをセットしてくれたベテラン陣に感謝である。
稜線上は常に猛烈な風が吹き付けてくる。いつでも耐風姿勢を取れるように、四つんばいで進むのが安全だ。 そして13時41分、ついに犬ヶ岳山頂に到達。感無量だ。
だが時刻は既に14時前。暴風が吹き荒れる稜線上から一刻も離れ、風の穏やかな場所まで下りてテント場を探さねばならない。ガスに巻かれ、道迷いする。時折、目も開けていられないほどの風が吹き付け、氷の粒が顔を叩いた。
なんとかガスの向こうに栂海山荘を見つけ、ほっとする。入り口は雪で閉ざされている。
壁一面には氷の造形物、通称”エビの尻尾”だ。風上に向かって伸びている。
白鳥山へと続く稜線を進んでいく。山荘からの下りでは、練習を兼ねて懸垂下降を1ピッチ行った。
あっという間に降りてきた。山荘がかなり小さく見える。だが、まだ風は強い。まだまだ標高を下げる必要がある。
初雪山は雲を纏っていた。
標高1340m近辺で良いテント場を見つけ、行動を終了する。時刻はすでに15時30分、急いで整地し、テントを設営する。なんとか日没前に設営完了できた。
夕闇が迫る。西の空がオレンジに染まり出す。
今日は険しい犬ヶ岳を無事に越え、今回の旅の最大の難関を突破できた。テントの中では大宴会だ。持ってきた酒、おつまみを全て消化する。明日はいよいよ下山である。