いざ毛勝山へ、3度目のアタック
毛勝山。この山には、これまで2回挑んでいる。1回目が今年の3月。2回目が今年の11月(3週間前)。どちらも、険しい地形と大量の雪により、山頂直下で撤退という残念な結果であった。
年内にはもう行くことはないだろうと諦めていた毛勝山であったが、快晴となった本日、3月に一緒に挑んだメンバーでリベンジをかけることにした。
4時過ぎに起床し、5時前に家を出る。仲間と合流し、登山口へ車を走らせた。この時期になると、片貝山ノ守キャンプ場手前で県道は封鎖され、徒歩で向かうしかないのだが、今年はまだ雪が少なく、車で登山口まで入ることができた。
空には無数の星が瞬いている。まだ辺りが真っ暗な5時49分に歩き始めた。急ぐことなく、ゆっくり登っていく。急登が終わり、西北尾根に上がった辺りから数センチの積雪があった。どんどん登っていってもそれほど雪は増えず、8時30分には1769mピーク手前までたどり着くことができた。
彼方には朝日岳の姿。
数日前の新雪だが、硬く締まっていて、ツボ足でも十分歩ける。雪の量は3週間前よりも増えていたが、コンディションは良さそうだ。
9時、標高約1900m地点でワカンジキを装着する。約8ヶ月ぶりのワカンだ。
9時32分、モモアセ池を通過。
この辺りは夏は草原地帯となっており、池原の草原と呼ばれているようだ。その昔、池原さんという方が草刈りをして登山道を開拓したから、というのが由来らしい。
真っ白の雪面は本当に美しい。自然の作り出す芸術である。
10時40分、早くも2151mピークに到達することができた。記念撮影をし、小休止した後、最後の登りへ気合を入れる。右下にいる人間と比べると、いかに山が大きいか、お分かり頂けるだろう。
雪山に挑む人間の後ろ姿は凛としていて、かっこいい。
誰も踏んでいない新雪の上に初めて我々がトレースをつけていく。
クワガタ池を越えると、いよいよ急な登りとなる。雪の上には風紋ができていた。
雪にカメラを近づけ、斜面より上を撮ってみた。風が吹くたび細かい氷の粒が舞い上がり、キラキラ輝いていた。太陽が、山肌ととても近い。いかに急な斜面であるかが分かる写真である。
先頭をゆくYさん。かっこいい以外の言葉が見つからない。
後ろを振り返ってみる。だいぶ登ってきた。
右手に見えるこの尾根は、3月にアプローチした大明神尾根。大明神山(2082.8m)を超えて、100mほど下った後、2249mピークに向かって急斜面が続く。
11時38分、標高2350mを超えた。山頂まではもう少しだ。ウィンドクラストにより雪面は非常に硬い。カンジキの爪をしっかり効かせながら進む。
11時45分。ついに長い登りが終わり、山頂に到達。今まで全く見ることができなかった山の反対側の景色がどーんと飛び込んできた。正面に剱岳、右側には猫又山まで続く毛勝三山の稜線、左側には後立山連峰。
剱岳のアップ。まさに岩と雪の殿堂の名がふさわしい。
遥か彼方には白山も見えた。幾重にも連なる山々が美しい。
雪山での最強の武器、ピッケルである。
山頂には1時間弱滞在し、12時40分に下山を開始する。
急な斜面だが、日が当たって登りの時よりは雪が緩んでいた。それほど滑落の恐怖はなく、大股でスカスカ下っていくことができた。
後ろを振り返るとかなりの斜面だ。こんな斜面を苦労することなく下れるまでには成長したのだなあ。それでも、慢心はせず、常に慎重に。
20分ほどで2151mピークまで降りてきた。実に登りの3倍のスピードだ。
さらに40分ほどでモモアセ池を越えた。その先でしばし小休止。
小休止のあと、ヒヤリとする事が起こった。少し油断していたのだ。何でもない斜面でバランスを崩して転び、パウダースノーとともに数メートルほど滑ったのである。慌ててピッケルで止めようとするが、うまくいかず、自然に止まって事なきを得た。その直後、ベテランYさんまでも転倒し、やはり数メートル滑った。雪山の下りは楽であるが、常に気を抜かないことが大事だとしみじみと感じる出来事であった。
その後、安全な場所で、万一滑落した場合の止まり方を2人から改めて教わった。体をひねって体重をかけながらピッケルを思いっきり雪に刺すのである。刺す際にピッケルが鎖骨に当たって鎖骨が骨折することもあるが、滑落して命を落とすよりは10000倍マシである。練習してみたが、本気で刺すことができない。おまけに素手だったため、ピッケルのギザギザした部分で手をすりむいてしまった。雪山ではどんなに暑くても、薄手の手袋はしておくべきである。
気を取り直して、下っていく。初雪山と犬ヶ岳が見えた。
長い長い西北尾根。雪があると少しは膝への衝撃が和らぐ。16時、やっと尾根道が終わり、登山口へ向けて最後の急斜面を下りる。もう黄昏の空となっていた。
16時27分、ついにゴール。11時間弱に及ぶ長い戦いが無事幕を閉じた。10月も11月も天気に恵まれない山行が多かったが、久しぶりの快晴のもと、初めて毛勝山頂を踏むことができ、しかも大絶景を堪能でき、最高の1日となった。