自由気ままに 〜山、旅、心〜

山登りの記録や、旅の記録、日常生活の中で感じたことをのほほんと綴るブログ

初心者には厳しすぎた布施川本流

昨日は雨で中止となった沢訓練。今日は良い天気になるとの予報から、1日延期することになった。参加者は2名減ってSさんと私だけ。2名だけでも行ってみよう。

 

朝5時集合。昨夜は0時半に就寝したものだから明らかに寝不足である。2台の車を走らせ、1台を嘉例沢森林公園にデポし、もう1台で布施川ダムの奥にある鼻の滝を目指す。

 

6時40分。鼻の滝からスタートする。滝の名前は、二筋の滝が鼻水のように見えることに由来しているらしい。沢に下るまでが一苦労。急な斜面を潅木に掴まりながら降りる。

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沢に降りてしばらくは易しい道が続く。水の中を歩くのは初めての経験である。どの程度の岩なら踏んでも滑らないか、徐々に感覚をつかんでいく。

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ソバナ(キキョウの仲間)が咲いていた。美しい沢だ。

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水が勢いを増してくる。深いところでは腰まで浸かる。

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小さな滝がいくつも続く。右岸、左岸を行ったり来たりで突破する。深くて泳がねばならない箇所もあった。

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7時15分。突如目の前に堰堤が姿を現した。右岸の斜面を登ってかわす。斜面は泥付きで滑るため、潅木を頼りによじ登る。

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堰堤の先は穏やかな流れ。美しいピンク色の紫陽花に心和む。

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ゴロゴロと巨岩が転がる中、遡上を続ける。

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7時35分。第2の堰堤が現れる。今度は左岸の泥付きを登る。イラクサの棘がいやらしい。棘にはシュウ酸が含まれているのだとか。触れただけでしばらくチクチク痛む。

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7時45分。第3堰堤が現れる。右側に出ている自然の岩を登ることでクリア。

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 7時50分。第4堰堤。この堰堤が手強かった。堰堤手前の泥付きは、急すぎて登ることができない。少し戻って登れそうな場所を見つけ、藪に分け入る。高巻きだ。

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かなりの急斜面をトラバースしないといけないため、Sさんが危険と判断し、ロープを取り出す。しっかりした潅木の根元を始点にし、Sさんがリードする。水の音で相手の笛の音もほとんど聞こえない。ロープを引っ張ったりして合図を送った。藪の中を2ピッチ伸ばして堰堤を高巻き、ルンゼがあったので、懸垂下降で再び沢沿いへ。30mロープを折り返して使用したため、15mしか降りれない。ギリギリであった。

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8時45分。第4堰堤を突破するのに1時間かかった。ザックを降ろしてエネルギーを補給する。スマートフォンで現在地を確認すると、距離にして全体のわずか5分の1しか進めていない。ここまでで2時間経過している。先が思いやられる。

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第4堰堤から先はしばらく平和な道。こういうのが、ずっと続いてほしい。

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と思ったのも束の間、突如として奴は現れた。薄暗いゴルジュだ。まるで地獄への入り口のようだ。これはやばい。

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危うく流されそうになりながらも、何とかしてゴルジュの奥へ進むことができた。途中、岩で滑って落水した時は強い水流にびっくりして、本当に焦った。

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ゴルジュを突破し、先に進んだSさん。恐ろしい物を見たようだ。即きびすを返し、手でバッテンサインを私に送った。聞けば、奥に連続する瀑布があり、どうすることもできない。慎重にゴルジュを引き返す。

 

安全地帯へ一旦戻り、地図を確認する。地図上には滝マークはない。実際に来ないと分からないことがあるものだ。この先は、小杉谷との出合いがある。Sさんが、出合いの先まで左岸を大きく高巻こうと言う。

 

登れそうな斜面を見つけて取り付く。ガレ場になっており、落石多発地帯だ。ある程度登ったら、今度は水平に斜面をトラバースする。足元は泥付きで滑りやすく、頼りない潅木も多い。落下したら遥か下の谷底まで行ってしまう。

 

私はこの時、怖くなっていた。落ちる恐怖。先が見えない不安。思わずSさんに「怖い」と言った。広くなっている場所で一服する。Sさんはさらに進もうとするが、私はもう限界であった。このまま進んだら、確実に滑落死するという予感があった。Sさんに「もう無理」と伝え、ここを最終到達点とした。時刻は9時40分。出発してから3時間である。腰を下ろしてゆっくりする。深呼吸を繰り返して、精神を落ち着かせる。もう後は帰るだけだ。確実に生きて帰ることを心に誓った。

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Sさんがロープを出そうかと言ってくれたが、慎重に進めば大丈夫だと判断し、ロープなしでゆっくり降りる。

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10時10分。第4堰堤まで戻ってきた。堰堤のコンクリートに打ち込まれていた鉄筋(はしごの残骸)を支点に懸垂下降する。回収時にロープを痛めないように、捨て縄をかける必要があったが、1本しか持って来なかった捨て縄は、ここの高巻きで消費してしまったこともあり、仕方なくSさんが自らのシュリンゲを捨て縄にした。

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下りは遡上と違った景観を楽しむことができた。本当に清らかな流れだ。

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水流で岩が削られてできた小さな釜を発見。

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全ての堰堤を下り切って、ホッとするが難所がまだ幾つもあった。Sさんも私も滑って何度か水中にドボン。カメラケース内にわずかに浸水してしまった。慌ててカメラをザックの中にしまう。

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12時前に無事に鼻の滝まで戻ってくることができた。無事に生還することができたと、二人で喜びを噛み締めた。それにしても、僧侶が仏像を担いで登ったという話は何だったのだろう。こんな難易度の高い沢、初心者には厳しすぎる。

 

 

今回の沢訓練を振り返って

・「自分の命は自分で守る」... 怖いと思ったら素直に言ってメンバーに伝えること。これは一番大事なことだ。

・「誰も行ったことのない沢に初心者を連れて行かない」... これはベテラン陣が意識しておくべきだ。

・「捨て縄を十分に携帯する」... 行ったことのない沢では、何が出現するか分からない。懸垂下降する分だけ捨て縄は消費される。十分に持っていくこと。

・「リスクを比較する」... 第4堰堤降下時、捨て縄を使わず、鉄筋に直接ロープをかけるという手もあったが、回収時にロープが傷むリスクがあった。それと比べれば2千円程度のシュリンゲは大したことのない犠牲である。